OLYMPUS PEN-Fの修理
- 宮越写真機修理店
- 7月17日
- 読了時間: 6分

1963年発売の「OLYMPUS PEN-F」です。
当時はハーフサイズのオリンパスと言われるほどPENシリーズが成功したオリンパスですが、シリーズはコンパクトカメラにとどまらず世界初のハーフサイズ一眼レフへと展開しました。
チタン幕ロータリーシャッター、ポロプリズム状のファインダー経路、ペンタプリズムの無いフラットなデザインなど、日本国内にとどまらず海外からもこれぞメイドインジャパンと評価されたカメラです。
1966年には次のモデルとなるPEN-FTが発売されました。
ファインダー経路の反射面の一つをハーフミラーにし、透過光をCdSで受けるTTL露出計を備えたモデルです。他、巻き上げレバーはPEN-Fのダブルストロークからシングルとなりセルフタイマーも追加されました。
修理では露出計の整備の有無以外、FもFTも大きな違いはありません。
よくある故障としてはミラーアップしたまま固まってしまうケースや、シャッターを切ると開いたまま閉じなくなってしまうなどです。
また、ファインダーの劣化も問題となるカメラとなっており、プリズムや経路上のミラーに腐食が発生している個体も多く、改善には交換が必要となります。
他、ダブルストロークのかみ合わせがズレている個体もあり、二回巻き上げてもシャッターを切ることが出来ず、二回と少し追加で巻き上げなければならない不具合もご依頼いただいております。

PEN-Fシリーズの革は他のカメラに比べても強力に接着されているため、マイナスドライバーのような物で無理やり剥ぎ取ったものと思われる個体が多くあります。
分解中の写真をご覧いただくとボディに短く白い線が多数見られますが、ダイキャストが削られてアルミの地色が白く見えている状態です。

製造されてから現在までプロ素人問わず、どんな方がバラしていてもおかしくはないですが、適切に剥がせば写真のようにカメラを傷つけることはありません。
ボディ側の傷同様に革も無理やり剥がされた際に裏面も傷つけられていると、貼り直した際に凸凹が残ってしまいます。
一見綺麗に貼られている革でも、触ってみると部分的に凹みを感じるカメラもありますが、中身がいくらしっかりと整備されていたとしても、革が凸凹した状態で納得できる方はいらっしゃらないと思います。
残念ながらPEN-F,FTではそのような革がボコボコした中古品が珍しくありません。
とても残念なことです。
貼り革はカメラを持った時に手が滑らないように、またそこにシボ模様やローレット調、エンボスパターンなどのデザイン性を加えてカメラを飾っています。
貼り革を綺麗に剥いで修理後に丁寧に貼り戻すことは、中身の修理と変わらずに大切な個所になります。
なぜかあまり気にされないのですが、PEN-Fはハーフサイズのカメラなのに巻き上げはダブルストロークとなっています。
フルフレームの半分だけコマを進めればよいはずなのに、二回の巻き上げを必要としているカメラです。
写真からもその理由を見ていただけると思います。
ロータリーシャッターはシャッターを切った瞬間に素早くチタン幕が一回転することで掻き切り部分で露光し、幕部分でフィルムゲートを覆う仕組みのシャッターです。
幕の回転がそのままシャッターの最高速となるため、コイルバネにはしっかりとテンションがかかっている必要がありますし、またテンションが弱いと回転中に張力の弱まりに合わせて回転速度もだんだんと遅くなり、開き始めと閉じ終わりでは幕速が大きく異なってしまいます。
PEN-Fシリーズではミラーの駆動にもコイルバネが使われています。
これらのバネを無理なくチャージするためにギア比を上げて二回のストロークで巻き上げを行っています。

PEN-FTでは露出計のメーターコイルを設置するために巻き上げレバーの位置が変更され、通常のカメラと同様にスプール軸上に設置された巻き上げレバーでシングルストロークするカメラとなっています。
ですがレバーの位置が変わっても必要なチャージ量は変わりません。
そのため、てこの原理をより効かせるためにFTはFよりも巻き上げレバーが長くなり、大きなストロークで一回の巻き上げに全てのチャージを収めています。
それでも本来はダブルストロークが必要だったカメラなのでPEN-FTはFに比べて巻き上げが重い要因になっています。
PEN-Fシリーズはシャッターを切ると「ジャキッ」と独特なシャッター音がします。
ロータリーシャッターが力強く回転する様子がうかがえますが、開放されたバネの自由回転を抑制し、回転速度の均一化を担うゴムブレーキが設置されています。
マイナーチェンジによりもともと設置されていないモデルもありますが、ブレーキを担っているOリングが劣化して故障している個体も時折お見受けされます。
コイルバネの強さはミラーでも同じで、勢い良く開閉する衝撃でミラーが剥がれることも珍しくありません。

写真からも独特な造りのロータリーシャッターの機構部を見ていただけると思います。
一般的なシャッターとは異なる形状をしていますが、前回のブログ「OLYMPUS OM-1」の調速機構と比べていただけると類似性が感じられます。
通常では階層状に積み重なっている構造が平面に並べられており、それぞれの間やスローガバナーをカムとアームが結んでいます。
OM-1ではミラーボックスの下に低く平面に、PEN-Fシリーズでは縦平面に配置した形となっています。
同じ米谷美久氏による設計のカメラです。
ロータリーシャッターの回転軸に合わせてシャッターの機構部も縦に配置されているため、巻き上げ軸とは軸が直交してしまいます。
これを90度向きを変えるための直交軸ギアにフェースギア(クラウンギア)が用いられています。
恒久的にはベベルギアの方が良いと誰しも思う部分ですが、スペースの無い機構部では薄歯のフェースギアに頼らざるを得なかったのだと思われます。
過去の使用状態にもよりますが、PEN-Fシリーズは酷使されると巻き上げがゴリゴリとごろつき始めてしまう悪い特質があり、フェースギアが原因となっています。
世界初のハーフサイズ一眼レフとして、デザイン性や設計からも評価されつつ、逆には「負荷が大きいカメラ」や「詰め込み過ぎ」といわれた所以がこのフェースギア周辺からうかがえます。

修理では何をするにもまずはミラーボックスを降ろさないと始まらないカメラです。
最高速以外の全速をスローガバナーで遅速させて制御しているため、ガバナーへの負荷も大きいカメラです。
不具合は多くありますが、全て修理可能です。
経年の摩耗に関しても可能な限り整備を行っています。
何よりも、フラットで横長なデザインが、他に無いとても綺麗なカメラです。
ご依頼では露出計のあるPEN-FTが多い傾向ですが、PEN-Fシリーズ全て修理お取り扱いしております。
ぜひこれからもお使いいただきたいカメラです。
OLYMPUS製品をはじめ、ご依頼いただいたお客様のご感想を掲載させていただいております。
「お客様の声」
修理のご依頼、故障のご相談はお問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。
宮越写真機修理店「カメラ修理ブログ」トップページ











コメント